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第11話 共同研究発表

作者:急急如律令


2025/11/17 15:00 公開

篠崎蓮と桜庭教授、そして海外チームのアーネストらが並んだ合同記者会見は、大学公式サイトと学内広報で大々的に告知された。

テーマは――

『金の再資源化プロセスに関する国際共同研究開始』

派手ではないが、じわりと注目を集めそうなタイトルだった。しかし実際の学内の反応は――予想以上に複雑だった。

◇工学部:好意的だが遠巻き

「桜庭先生また変な研究始めたらしいぞ」
「学生と一緒に? 篠崎くんって、あの……徹夜寝袋常備の?」
「金属再資源化か。まあ環境系としてはアリだけど……金って点が怪しいよな」

噂はすぐに工学部棟を駆け巡った。研究の名前が“怪しくない方向”へ寄せているおかげで、表向きは静観ムード。

だが本音は。

「……また桜庭ラボだけ試料が湧いてくるんだろ」
「前から金属の供給量おかしかったしな」

“何か裏があるのでは”と常に思われている研究室だけに、疑念の目は消えない。

とはいえ、「金属材料、少し分けてもらえません?」と明らかに利用を目論む研究者も増えた。

◇化学系研究室:激しく反応

「金の再資源化……? 電解? 触媒? 何をやってる?」
「再資源化プロセスを実験室レベルで? いや無理だろ」

化学科の教授陣は会見映像を見ながら、眉間に皺を寄せて議論を始めた。

「この国際チーム……有名どころではないな」
「つまり……実績作りか?」

篠崎蓮の名前が資料に載っているのを見た助教が、半笑いで呟く。

「学生にこんな大役を? 桜庭先生、また突拍子もないことを――」

表向きのテーマが「金の再資源化」だけに、化学系は敏感に反応した。

「本当にプロセス改善をしたなら羨ましい気もするけど……実際はどうだか」

多くは懐疑的。しかし“試料が手に入るかもしれない”という期待もあった。

◇経済学部:妙に食いつく

「国際共同研究だって? でもテーマが金……」
「市場流通の話があるなら面白そうだな」

経済学の学生たちは別の意味で興味深々。一人がスマホでニュースを見ながら言う。

「金の再資源化って、マジで市場動くやつじゃね?」
「でも学内プロジェクトだろ? そこまで影響ないって」
「いや……もし本当に金の供給量が安定したら――」

と、投資の話に脱線していく。

専攻が違えど、“金”が絡むと人は妙に敏感だった。

◇大学本部:慎重かつ警戒気味

「桜庭教授のプロジェクト……今回は大丈夫でしょうか」

副学長が事務局に確認する。

「一応、倫理・安全委員会は通っております。ただし“金属試料の急増理由”については……」
「説明が抽象的すぎるのですよね」

大学本部は、一歩引いた立場で監視に入る。

“このプロジェクトは、本当に環境保全技術なのか?”
“金の扱いにリスクはないのか?”

公式発表はしたものの、信頼は盤石ではない。

◇学内の学生:半分誤解・半分噂

SNSでは軽率な噂が飛び交っていた。

「金が作れるってマジ?(笑)」
「桜庭ラボ、今度は鉛を金にしはじめた?」
「学生がやばい研究に巻き込まれてるって聞いた」

蓮は学食で耳にしながら、思わず額を押さえた。

「……噂の方が派手だな」

隣で桜庭教授がコーヒーを飲みながら笑う。

「良いではないか。話題とはすなわち“信用指数”だよ、篠崎君」
「いや、信用とは違うと思うんですが……」

◇そして、明里の反応

彫金工房では明里が、発表資料を見つめてポツリと呟いた。

「……蓮くんたち、すごいことになってる」

胸の奥に、誇らしさと不安が入り混じった気持ちがじんわり広がる。

彼女はまだ正式メンバーではないが、“金加工担当”として確実に巻き込まれつつある。

工房の先輩が横から言う。

「へえ、金の研究? 桐原、あんた関係あるんじゃないの?」
「え、いや、私は……その……」

明里は耳まで真っ赤にして視線をそらした。


金の流通量の変化に気づく人々の反応

共同研究が発表されてから数週間。篠崎蓮は大学と研究室の往復に追われていたが、その裏で“静かな波紋”が世界に広がっていた。

◆専門家たちのざわつき――市場分析チーム

大手投資銀行のモニタリングルーム。ディスプレイが壁一面に並ぶ中、データアナリストたちが眉をひそめる。

「ちょっと見てくれ。金の現物市場……妙に増えてないか?」
「は? こんな不自然な増加、採掘量じゃ説明つかないぞ」
「再資源化の新技術でも出たのか? ……いや、そんなニュースは聞かない」

担当者は世界の金在庫統計を数年ぶりに丹念に読み返す。すると、増加幅はわずかではあるが、確実に“説明不能なライン”に差し掛かっていた。

「誰か……こっそり精錬してる?」
「闇ルートか? いや、それにしては品質がいいんだよな……」

そして別のアナリストが言う。

「そういえば、この国の大学が“金の再資源化研究を始めた”ってニュース、あったよな?」
「……まさかね」

笑ってはいるが、表情は笑っていない。

◆宝飾店の現場から――静かな困惑

街中の宝飾店。店長は仕入れリストを見ながら首を傾げていた。

「最近、やたらと質の良いインゴットが流れてくるな……」
「偽物ですか?」と若い店員が聞く。

「いや、それが逆に“本物すぎる”んだよ。刻印さえあれば、間違いなく大手メーカー製だと信じるだろうな」

さらに仕入れ担当のベテランが気づく。

「市場の流通総量も微妙に増えてますよ。この時期に増えるのは変だ。採掘量も精錬量も増えてないのに……」
「誰だろうな、こんな上等な金を流してるのは」

宝飾業界では“正体不明の供給元”が密かに話題になり始めていた。

◆ネット投資家たち――半分冗談、半分本気

SNSの投資フォーラムでは、スレッドが盛り上がっていた。

【速報】なんか金の流通量増えてない?
【金価の動き、絶対おかしい】
【新技術って噂あるけど本当?】

匿名勢は勝手に憶測する。

「裏で金を作ってる科学者がいる説、好き」
「鉛を金にする研究、昔からあったよな」
「いや、お前ら錬金術読みすぎw」

しかし、一部の理性的な投資家はこう言う。

「どこかの組織が、市場に介入している可能性がある」
「金は値崩れしないはずの保守資産だ。これは異常だぞ」

そして、あるユーザーが貼ったリンクがスレをざわつかせた。

◇地方国立大学が「金の再資源化」研究に着手
※篠崎蓮/桜庭教授チーム

「……おい」
「まさかこの研究室じゃねえだろうな?」

薄ら笑いと疑念が混ざったコメントが続く。

◆一般人の感覚にも変化が

「最近、金のアクセサリー値段下がった?」
「質屋の金買取、前より柔軟になってきた気がする」

ファッション好きの若者、質屋をよく使う社会人、宝飾店を見慣れている人々――
彼らの肌感覚にも微妙な変化が出ていた。

だれも大声では言わないが、“金が手に入りやすくなっている”という空気が生まれはじめていた。

◆そして――大学にも影響が戻ってくる

学内の財務課の職員が、教授会議の会場に書類を持ってきた。

「桜庭研究室に対する寄付金の申し込みが……複数来ています」

教授陣がざわつく。

「金の再資源化? なんだその人気」
「まさか、あの研究……本当に成果が?」
「いやいや、ただの環境系テーマだろ」

しかし、財務課長が眉をひそめて言う。

「寄付元に不自然な共通点があります。“金属流通”に関わる企業が多いのです」

桜庭教授が静かにコーヒーを置く。

「……動きが早いな。市場は我々が思うより敏感だ」

篠崎蓮は不安げに明里を見る。

「これ……まずい流れじゃないですか?」

明里は唇をぎゅっと結んだ。

「蓮くん……もしかして、私たち……世界、ちょっと変えちゃってる?」

桜庭教授がゆっくりと立ち上がる。

「さて、次はどう手を打つべきか――我々は“金を作れる研究者”として注目され始めてしまったからね」